子宮卵管造影検査(HSG: hysterosalpingography)                   
 
1. 不妊治療の流れをもう一度おさらい
 
初診 問診、婦人科的診察(内診、スメア、超音波検査)、クラミジア感染症検査、
できればホルモン検査
基礎検査 ホルモン検査、子宮卵管造影、精液検査
タイミング法 HCG注射、クロミフェン(CC)療法、HMG-HCG療法
↓ ↓
人工授精(AIH)
腹腔鏡検査
体外受精・胚移植(IVF-ET)

2. 子宮卵管造影検査の重要性と卵管閉塞・狭窄

 卵管は、排卵して卵管采から取り込まれた卵と腟から子宮内へと進入してくる精子が出会って受精する大切な器官です。この卵管が両側とも詰まっていると妊娠しません。ですから、1年以上妊娠しないご夫婦の場合、卵管が通っているかどうかを調べる子宮卵管造影検査を早い時期にお受けになることをお勧めします。



  
 卵管は微生物の感染によって閉塞を起こしやすい場所です。最近増加傾向にあるクラミジアという病原体の感染によって閉塞を起こすことはよく知られていますが、そのほかにも淋菌や大腸菌などの感染によっても閉塞は起こりえます。クラミジアに感染していたか(しているか)どうかは、採血によって調べることができますので、不妊症の基礎検査として行っています。
 また、卵管や子宮、腹腔内にできた子宮内膜症という病気や、以前受けた手術による癒着などによっても、卵管の癒着や閉塞を起こすことがあります。
 
3. 子宮卵管造影検査の実際
 子宮内腔に図1のような卵管疎通検査用カテーテル(ヒスキャス・住友ベークライト)を経腟的に挿入し、このカテーテルを利用して造影剤を子宮内に注入します。造影剤が子宮内腔から卵管を通り、腹腔内に流れ出す様子をX線で透視確認しながらX線撮影するのが子宮卵管造影です。この検査によって、子宮の中の状態(子宮の奇形や子宮筋腫・ポリープの有無)や卵管の閉塞や狭窄の有無、走行などがわかります。ただし、卵管周囲の癒着はこの検査ではわかりません。



図1 卵管疎通検査用カテーテル(ヒスキャス・住友ベークライト)
 
a. X線撮影写真
 白色の部分が経腟的にカテーテルより子宮腔内に注入された造影剤です。中央に逆三角形をした子宮腔が描写され、その両端から細い糸状の卵管が描写されています。この造影剤の描写状況によってさまざまな診断がなされます。ちなみに図2の子宮卵管造影像は正常例です。しかし、図3では、左側(向かって右側)の卵管に造影剤が見えず、左側の卵管が完全に閉塞していることがわかります。
                
   図2 正常な子宮内腔と卵管                     図3 左卵管閉塞            
 
b. 実施時期

 月経が終了し性器出血がなく、妊娠が完全に否定される時期すなわち排卵前に行うのが最良です。具体的には性周期の7~9日目の頃です。
 
c. 造影剤

 子宮卵管造影に使用される造影剤には油性剤と水溶性剤があります。
 一般に油性造影剤の方が造影能力に優れているのが最大の利点ですが、油性であるため生体組織に吸収されにくく、長時間腹腔内に残留したり異物性の炎症を起こしたりします。
 水溶性剤はやや造影能力に欠けますが、水溶性のため容易に組織から吸収され残留することはありません。また、最近のヨード系水溶性造影剤は低浸透圧性ですので局所刺激も非常に少ないのが利点です。
 子宮卵管造影検査後には妊娠することがしばしばあります。これは検査によって卵管の疎通性が高まるからです。油性造影剤のほうがさらに妊娠する可能性が高くなるとの報告もありますが、もちろん水溶性造影剤でも妊娠率は高まります。子宮卵管造影検査後の6か月、特に最初の3か月間に妊娠率が高いことが知られています。

d. 子宮卵管造影検査の禁忌
 次のような状態のときは、この検査を行うことはできません。
@ 子宮や卵管、骨盤内臓器に急性の炎症がある場合。検査を強行すると症状が悪化することがあります。
A 子宮や腟にクラミジアや淋菌が感染していて、上行感染を起こす可能性がある場合。治療後に検査を行います。
  事前頸管クラミジア PCR、あるいは血液クラミジア IgG IgA 、淋菌PCRあるいは培養を確認することあります。
B 子宮からの出血が多量のとき。
C 月経中および月経直前。
D 排卵後および子宮内妊娠の可能性がある場合。
E 妊娠中のとき。
F 子宮や卵管の悪性腫瘍が疑われる場合。
G アレルギー体質、特にヨード過敏症のある場合。
 
                                                                           
 
子宮卵管造影検査に関するQ&A
 

Q 子宮卵管造影検査を受ける予定なのですが、かなり痛い検査だと聞いているのですが、どうなのでしょうか?
 
A 子宮卵管造影法は痛いというイメージがあるようです。それは、卵管を押し広げるようにして造影剤が通りますから、卵管がつまりぎみの方は多少の痛みはあるでしょう。ごくまれに、あまりの痛さでしばらく動けず、ベッドで休まなければならない方もいます。しかし、痛いのは卵管の通りがよくない証拠です。たいていの方はちゃんと卵管が通っていますから心配はいりません。ほとんど痛みはなく、検査も1〜2分程度で終わります。また、検査前、子宮腔内にやわらかいカテーテルを入れて、その先端の風船を膨らませて固定しますが、この時も少し痛みを感じます。痛いという先入観が強すぎると、痛みが増すこともありますから、気にしすぎないほうがいいでしょう。どうしても痛みへの不安の強い方は、痛み止めの坐薬を検査前に入れておくと、痛みはかなり軽減されますので、前もってお申し出下さい。



Q 子宮卵管造影検査はいつ行っても良いのですか?
 
A 絶対行ってはいけないという時期はありませんが、月経中は月経の血液を逆流させてしまったり、子宮腔内の血管に造影剤が入ってしまったりしますので行いませんし、排卵周辺や高温相でも成熟卵子や受精卵に放射線がかかるので基本的には行いません。推奨されているのは月経が始まって10日以内です。それ以外の時期に行うのであれば一応避妊をされておいた方がよいでしょう。
 


Q 子宮卵管造影検査後に注意しなければいけないことはありますか?
 
A 特別にはありませんが、出血が多いときや腹痛、発熱、発疹などを認めるようならばご連絡ください。また検査後の当日は、入浴で湯船に入られることは一応念のためにお控えいただいております。


 
Q 子宮卵管造影検査で何か分かるのでしょうか?
 
A 不妊症の場合にはこの検査で卵管の通過性を見ることが最も重要です。また、卵管の形状や、子宮腔内に子宮筋腫やポリープのようなものができていないかなどがわかります。


 
Q 子宮卵管造影検査で片方の卵管が閉塞している可能性があるといわれましたが、妊娠できないのでしょうか?
 
A 片方の卵管が閉塞していたとしても、妊娠できないというわけではありません。若干妊娠率は落ちますが妊娠は十分可能です。また、片方の卵管が閉塞しているということに関しては、子宮卵管造影検査のみでは確定できません。というのは片方の卵管の通過性がよすぎると、反対側の卵管からの造影剤の流出が不十分となって、閉塞している可能性があるという結果が出てしまうからです。


 
Q 子宮卵管造影の後、出血が続いています。原因は何でしょうか?
 
A 原因として考えられるのは、検査の際に使用した器具による出血です。子宮にカテーテルを挿入する際、子宮を固定するために子宮腟部(子宮の入り口)を鉗子で挟みますので、そこから出血することがあります。また、子宮腔内にカテーテルを入れますので、その先端で子宮内膜をほんの少し傷つけることがあります。こういった出血は通常2、3日で止まりますのでご安心ください。出血が多かったり数日間以上続くようならご連絡ください。